数字が苦手なまま越境ECを始めた僕が、最初にぶつかった「利益が見えない」という壁
著者:榮原颯人(Japan Classic 代表)
この記事は、20歳で独立し、手作りの陶磁器を海外へ売る越境ECを一人でやってきた僕が、開業したばかりの頃に本当に困った「お金」の話です。専門的な解説というより、同じように「数字が苦手なまま事業を始めてしまった人」に向けた、失敗の記録だと思って読んでください。
ビジネスの勉強はしたのに、税務はまったくのノーマークだった
独立する前、僕なりにビジネスの勉強はしていました。どうやったら物が売れるのか、利益とは何か、経費とは何か。そういう「商売」の本は何冊も読みました。
でも、いざ開業してみて気づいたんです。税務や簿記のことは、まったく何も知らなかった、と。
一番最初につまずいたのが「勘定科目」でした。正直に言うと、最初は**「勘定科目ってなんだよ」**という状態でした。売上とか経費という言葉は知っていても、「この仕入れはどの科目になるのか」「この費用は何費として記録するのか」が、まったく分からなかったんです。
間違えるのも怖いし、調べるのも面倒くさい。でも放っておくわけにもいかない。そんな状態で事業をスタートしました。
越境ECの「見えないコスト」に飲み込まれた
僕の事業は、日本国内の卸業者さんから手作りの陶磁器を仕入れて、海外のお客さんに販売する越境ECです。一点物を約1,000種類、今では5,000点ほど扱っています。
物販をやったことがある人なら分かると思いますが、商品を1つ売るのに、想像以上にたくさんのお金がかかります。僕の場合はこうでした。
- 仕入れ代金
- 広告費
- 送料
- 梱包材(緩衝材、箱、テープ、中に入れる紙……こまかいものが本当にたくさんあります)
- 関税
- 海外送金にかかる手数料
- その他いろいろな費用
とくに越境ECならではで苦しかったのが、関税と為替と送金手数料でした。
関税は、事前にいくらかかるかがはっきり分からないことが多い。為替も日々変動するので、売った日といざお金を受け取る日で金額が変わってしまう。海外への送金手数料も、思っていたよりずっと高くて、何万円もかかることがありました。
つまり、商品を売った時点では、その1個で本当に利益が出ているのかどうかが分からないんです。売値は決まっていても、後から乗ってくるコストが読めない。
計算してみたら、売れば売るほど赤字だった
これが一番きつかったところです。
ある時、関税や手数料まで全部ちゃんと計算してみたんです。そうしたら——赤字でした。
しかも、商品によっては「売れば売るほど赤字」という状態になっていました。頑張って売っているのに、売れば売るほどお金が減っていく。売れているのに手元のお金は増えていかない。これに気づいたときは、本当に青ざめました。
原因の一つは、一点物を大量に扱っていることでした。5,000点それぞれ仕入れ値も送料も違う。同じ「陶磁器」でも、1個ずつ原価が違うんです。だから「だいたいこれくらいの利益」というどんぶり勘定が、まったく通用しませんでした。
もう一つは、月末にまとめて来る請求でした。送料などは、ビジネス契約をしていると、商品ごとではなく月末に一括で請求が来ます。すると「今月の送料は合計でいくら」は分かっても、「じゃあこの商品1個あたりの送料はいくらだったのか」が分からない。1個あたりの利益を出そうにも、コストが商品に紐づかないんです。
図書館にこもって、夜中まで電卓を叩いた
分からないなりに、やるしかありませんでした。
税務や簿記のことを調べるために、図書館に毎日こもりました。それでも専門用語ばかりで、なかなか頭に入ってこない。一つ調べると分からない言葉がまた出てきて、その繰り返しでした。
そして、1商品ごとの本当の利益を出すために、すべての費用をExcelのスプレッドシートに手作業でまとめました。仕入れ、送料、関税、手数料……1つずつ入力して、1個あたりいくら残るのかを計算する。この作業を、夜中までやっていました。
つらかったのは、売れば売るほど、この作業が増えていくことでした。商品が売れるのは嬉しいはずなのに、売れるたびに計算作業が増えて、寝る時間がなくなる。寝られないから次の日の仕事に手が回らない。そしてまた作業がたまっていく。完全な悪循環でした。売上を伸ばすほど自分の首がしまっていくような、あの感覚は今でも忘れられません。
同じ立場の人へ:まず「1個あたりの本当の原価」を知ることから
もし今、昔の僕と同じように「数字が苦手なまま事業を始めてしまった」という人がいたら、伝えたいことがあります。
まず、商品1個あたりに本当はいくらのコストがかかっているのかを、正確に把握してください。
売値から仕入れ値を引いた「ざっくりの利益」だけを見ていると、僕のように後から乗ってくるコスト(送料・関税・手数料など)で、実は赤字だった、ということが起こります。とくに越境ECは、そのコストが見えにくい。だからこそ、1個あたりの原価を最初に押さえることが、何より大事です。
なお、越境ECには、国内販売にはない税務のポイントもあります。たとえば、海外へ商品を輸出する取引は、原則として消費税が免除される「輸出免税」の対象になります(国税庁「No.6551 輸出取引の免税」)。ただし、これを適用するには輸出の事実を証明する書類の保存など一定の要件があり、扱いは事業者によって異なります。ここは目安として知っておくだけにして、正確なところは必ず税務署や税理士に確認してください。
だから、僕は「エール」を作りました
あの頃、夜中に電卓を叩きながら、ずっと思っていました。「数字が苦手な自分でも、1個あたりの利益がパッと分かる道具があったらいいのに」と。
それが、今作っている経営管理アプリ「エール」の原点です。
レシートを撮るだけで、AIが日付・お店・金額・科目を読み取ってくれる。お金の流れが、売上は青・経費は赤・利益は金、と色で分かる。専門用語を知らなくても、自分の事業の数字が見えるようにする。あの頃の僕が本当に欲しかったものを、基本機能は無料で使えるように作りました。
数字が苦手でも、だいじょうぶ。同じように一人で頑張っている人の、静かで頼れる相棒になれたらと思っています。
この記事の税務に関する記述は、一般的な情報をやさしく説明したものです。個別の判断は、お住まいの地域の税務署・税理士にご確認ください。
出典:国税庁「No.6551 輸出取引の免税」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6551.htm /2026年7月時点)
エール(YELL)について詳しくは → https://yell-cloud.com